肘を擦りむいた星の王子様
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先日、大好きな散歩をしているとき、
目の前から自転車にのった親子が来るのが見えました。
後ろにお父さんがついて、5歳ぐらいの男の子が小さな自転車を、ふらふらしながらも一生懸命漕いでいました。
その親子に近づいていくと、男の子が泣きながら漕いでいることに気づきました。
僕の目の前に来た時、男の子は漕ぐのをやめて、
肘を押さえながら駄々をこねるように泣きわめきました。
僕はいたたまれなくなり、声をかけようとしてイヤホンをはずしたのですが、
『急に話しかけられたら怖いかな』との臆病が寸前で爆発し、そのまま通り過ぎました。
イヤホンをはずした片耳には、男の子の泣き声と、お父さんの「やっぱ痛いか」
という心配する声が聞こえてきました。
ひとりで歩いているとき僕は考えました。
『あの時、僕が話しかけていたら、男の子はどういう記憶をもつのだろう』と。
知らない男に心配された恐怖なのか、
優しいお兄さんに励まされた思い出か、
自転車には乗れないという諦めか、
それよりかどうでもいい記憶か。
僕は子どもの接するのが苦手です。
その一因には、僕がいることによって起こる、その子にとっての影響を考えすぎるからだと気づきました。
彼らこどもは地球からみた星です。
遠くから見れば小さく光っています。
でも時間をかけて近づいていけば、
その星がどんな年齢であっても、ちっぽけな僕からみれば、
大きい立派な星の天体であることがわかります。
宇宙船からみたら、そのありのままで堂々としている姿に圧倒されます。
たぶん船長の僕は、窓の外の大きな存在に感動しながら、
未知な別世界の星に着陸しようか、
周りをまわって観察するか、
怖気づいて離れるかするでしょう。
一人旅でゆっくりできるので、それに迷っている間に、舵取りを忘れ
思いもしなかった着陸をしてしまいました。
そして、その星の大地に不自然な凹凸をつくってしまいました。
近くでハンモックに揺られながら本を読んでいた星の王子様は、
不時着のせいでいきなり飛んできた石に頭を打たれて、
たんこぶを作って泣いています。
僕は「すみません、すみません」と言いながら王子様をみれば、
びっくりしてハンモックから落ちたのか、右肘から血が流れています。
僕は、頭をぐるぐるまわして
まずたんこぶを冷やす氷を持ってこようと
王子様に「ちょっとまっててね」と言いい、
急いで舟に戻って、冷凍庫の氷を袋に詰めます。
袋の口を結びながら王子様が待つ場所に戻ると、
そこに王子様はいません。
氷袋をもって、探しに行くと、
遠くから変な大きな生き物に乗った皇帝が僕を指さしています。
その後ろには大軍隊の影がじんわりと見えます。
「N,23、<#”じ3d21>#$$!!!!!!!」
僕は『息子を傷つけたあいつを殺せ!』みたいなことを言っていると直感しました。
僕は冷や汗かいて、宇宙船に戻って、離陸の準備をします。
時間はかかりましたが、攻撃される前になんとか離陸し、
大軍勢を率いた皇帝を見下ろしながら、胸をなでおろします。
「おにいちゃんは、どこからきたの?」
急な声に目が飛び出るほどびっくりして、振り向くと
さっきの王子様が右ひじを抑えながら、食卓スペースの椅子に座っているのです。
それが僕と王子様の出会いでした。